『完全自殺マニュアル』完全批判(5)

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 これまで行なってきた『完全自殺マニュアル』を言葉で撃破し葬り去る試みの、本論に移りたいと思う。


 ようやく手に入った1999年発行の本書は、その時点で第82刷を記録している。
 書き始めるまで知らなかったことだが、これは隠れた超ベストセラーといって過言ではないだろう。

 現在どのくらいの版を重ねているのかは知らないし、正直言って知りたくもないが、これほど売れた本があまり古本屋に流通していないことからも、いまだ生きる自信を見失った多くの人が手元に持っていて、水面下で相当な影響力を持っているだろうことは推測できる。

 そして発刊以来、いったいどれだけの数の人間がこの本の「手引き」で死んでいったのだろうか。

 1993年初版の本だから、新奇なものが次々に出ては忘れ去られていくサブカルチャー系の出版業界にあっては、相当古いものに属するということになる(実際その内容も古くさいのだが)。

 しかしにもかかわらず、この本がすでにそれだけ無数に社会にバラまかれていること、そしていまだに売られ続けて、多くの信奉者やネット上の模倣者を産み続けていることを鑑みると、本書を内容的に亡きものにせんとするこのささやかな試みも、少なからぬ意味を持つものと信じる。

 このような病的にフラットで破滅的な言論がもてはやされる現代の無責任な風潮と、その底にあってぼくらが何となくこの世の裏の(つまり本音の)「真理」だと思い込まされている、近代主義-ニヒリズム。それらが深く根ざしているのは、ようするに「世界はバラバラのモノから構成されていて意味もクソもない」というような、もはやあまりに自明化し空気のようになった世界観・宇宙観=“コスモロジー”である。

 すなわち、ぼくらが物心ついて以来たたき込まれてきた、真実に見えるけれどもひどく退屈でじつはすでに決定的に古い、この社会の現行のコスモロジーを相対化することもまた、ここで意図している。

 そして、ぼくらがいつもいたるところで見かける、そのようなニヒリズムを社会に伝染させようとする企て(それこそ「意味もクソもない」はずなのだが)が、とりわけこの本ではきわめて露骨で典型的なかたちであらわれていて、その目的にあたってのいいターゲットだと思われた。

 これはまったくの大風呂敷であり、一方自分が現状非才なことは承知しているつもりだが、しかしメッセージはまず発することが大切であり、また微力はイコール無力なのではない。
 臆せず進んでいこうと思う。


 それにあたり第一に、この本において著者がメッセージらしきものを発していることそれ自体への根本的な疑問を明らかにし、その矛盾の追及を試みる。

 さきの『人格改造マニュアル』批判でそのことを明らかにしたが、ここでもいっそう際だつのは、著者の自覚されざる自己矛盾と途方もないナルシシズムである。
 ようするに彼は社会と人生のすべてを無価値でくだらないと斬って捨てながら、そう評価する自分の立場を相対化することがまったくできていない。

 そして第二に――これが本書についていろいろな指摘がなされながら、決定的に見落とされていると思われるところだが――このような言説が流通することの社会的な問題性を取り上げたい。
 それが社会にとってのいわば毒であり伝染病でありガンであることを、この際はっきりと認識しておこう。

 ポイントは、社会にとって何が悪(言葉を換えれば“ルール違反”)なのかという原則をはっきりさせることと、「自殺するのは読者の勝手」というような最近流行のきわめて安易な自己決定-自己責任論の欺瞞性を暴くこと、そこから“言論の自由”とは単なる恣意ではなく一定の枠と責任を自ずと伴うものあることを確認することにある。

 そしてここでも、本書のような言論活動を行うことそれ自体において、著者の自己矛盾は決定的である。社会のルールに安易に乗っかって守られながら、そのルール自体の基盤を掘り崩す企てを嬉々としてやっているからである。


 そのあとで第三に、「自殺はいけない」という価値判断ができるための、そしてそれを力強く説得できるための、妥当性のある有力な根拠を示していくつもりである。

 著者は常識的で通俗的なニヒリズム、つまりこの社会で「真理」とされている、すべてをバラバラに捉えるような人間観-世界観-宇宙観を暗に絶対化してある種のメッセージを発しているわけだが、それに真っ向から反する、最新の現代科学をもとにいま出現しつつある、世界の新しい見方・コスモロジーを突き付ける。

 これは根拠のない感傷的ヒューマニズムや単に思弁的なだけの弱々しいニヒリズム批判ではない。
 その新しいコスモロジーとは、検証可能で柔軟な現代科学の通説を根拠としており、次の時代の世界観としてきわめて有力な妥当性を持つと評価できるものである。


 なお本論は多くの点において、このブログがそれを紹介するのを半分目的にしている、『生きる自信の心理学』(岡野守也著、PHP新書)という本に依っている。
 とくに現代科学的コスモロジーに関する著者の考えと実践は、ぼくらが何となく感染させられてしまっている近代科学主義-通俗ニヒリズムを脱却するための、現在最有力な方法論だと思われる。

 興味のある方はぜひそちらをご覧いただきたい。


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by type1974 | 2005-09-23 14:07 | 自殺
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